新しい相棒の到来:Hengbotの犬型AIロボット「Sirius」
こんにちは、システムインテグレーターのTak@です。このコラムでは、最近予約受付が始まった犬型AIロボット「Sirius(シリウス)」を深掘りし、その魅力とAIペットがもたらす新しい生活について、初心者の方にも分かりやすくお話しします。
最近、私たちの生活にAIロボットが少しずつ入り込んできていますね。
特にペット型ロボットは、その愛らしい姿と賢さで注目を集めています。その中でも、Hengbot社が新たに予約受付を開始した犬型AIロボット「Sirius」は、その機敏な動きと高度なAI機能で、まるで本物のペットのような体験を私たちに提供してくれそうです。
あなたの家にやってくる小さなアジリティの奇跡
「Sirius」は、その俊敏な動作が際立っています。たった1kgの小さな体で、本物の犬のように駆け回り、向きを変え、飛び跳ねる姿は、驚くほど自然な動きを見せます。
これは、脚と頭に合計14の関節軸を持ち、独自の「Neurocore」という関節技術が、滑らかな動きを実現しているからだとされています。ピアノの演奏に合わせて踊ったり、人間と握手したりする動画を見ると、その生き生きとした存在感に目を奪われます。
このロボットは、単なる動くおもちゃではありません。
顔やジェスチャーを認識するAI機能を持ち、指示に従ってくれます。また、OpenAIと連携することで、自分だけの個性を育てることができるのです。音声コマンドにも対応しており、例えば「踊る」や「座る」、「猫のように振る舞う」といった指示にも応じてくれると発表されています。
Siriusの多彩な機能とカスタマイズ性
Siriusは、ユーザーが楽しめるように様々な工夫が凝らされています。
- 動作の再現性:穴掘りやストレッチ、さらにはマーキング(おしっこ)のポーズまで、本物の犬ができる動きのほとんどを再現できるとされています。
- プログラミング学習のサポート:「ゲームのような」エディターでカスタマイズが可能で、プログラミングを学びたいSTEM教育にも適しています。私は趣味でAIツールを開発していますが、こうした直感的なプログラミングツールは、初めてAIやロボットに触れる方にとって、創造的な体験の扉を開く大切な一歩になると感じています。
- 個性豊かな表現:コーギーなど特定の犬のような性格に設定したり、頭部のタッチスクリーンに様々な表情を表示させたり、音声パックをアップロードして声を変更したりと、まるで生き物のようにカスタマイズできます。RGBライトのカスタマイズも可能で、自分だけのSiriusを作り上げることができます。
Siriusは主に室内の平坦な床での使用を想定しており、屋外での使用は推奨されていません。バッテリーは動作時で40分から60分、待機状態で1時間から2時間持ち、充電は約1時間で完了します。
視覚には800万画素のカメラを搭載し、開発やアクセサリー接続用に2つのUSB-Cポートも備えています。
AIペット市場の賑わいとSiriusの位置づけ
「Sirius」の登場は、AIペットロボット市場の活況を象徴しています。現代社会では、多忙なライフスタイルや住宅事情、アレルギーなどの理由で本物のペットを飼うことが難しい家庭が増えています。
このような状況において、AIペットロボットは、私たちに癒しやコミュニケーションを提供してくれる存在として、その需要を広げています。
様々なAIペットたち
AIペットロボットは、各メーカーが独自の特徴を打ち出し、多様なモデルが登場しています。
- ソニー aibo:1999年に初代が登場して以来、AIペットの先駆けとして知られています。現在の新型aibo(ERS-1000)は、オーナーとの触れ合いを通じて個性を育み、絆を深める「育てる楽しみ」を提供します。クラウドと連携し、飼い主の顔や声を認識して成長していく点が特徴です。まるで本物の犬のように接し、定期的にファンミーティングも開催されていることで有名です。
- GROOVE X LOVOT:感情豊かな反応でユーザーに寄り添うことを重視しています。抱きしめると喜ぶなど、触れ合いを通じた癒しに特化しており、体温のような温もりや自然なアイコンタクトを実現する瞳が特徴です。
- シャープ RoBoHoN:二足歩行のロボット型スマートフォンとして、音声会話やダンス、プロジェクター機能まで搭載する多機能モデルです。ChatGPTを活用しており、おしゃべりも得意です。
- ミクシィ Romi:机に置けるコンパクトサイズで、自然な雑談を得意とする卓上AIパートナーです。日々の会話を通じてユーザーの好みや話し方を学習し、まるで話し相手がいるかのような感覚を提供します.
- カシオ Moflin:手のひらサイズの小動物型で、感情表現豊かな鳴き声と動きが魅力です。飼い主の接し方を学習して個性が芽生え、生き物のような愛着が生まれるとされます.
- パナソニック NICOBO:「弱さ」を魅力とするユニークなAIペットです。「永遠の2歳児」というコンセプトで作られ、話しかけても反応が鈍かったり、突然寝てしまったりする完璧ではない挙動が、かえって愛着を生み、ユーザーに癒しを与えます。
- KEYi Tech Loona:「Sirius」と同じ犬型で、ChatGPTを搭載し、スムーズな会話が可能です。高性能カメラと3D ToFセンサーによる3Dナビゲーション機能や、子犬のような動きと1000種を超える多彩な感情表現も特徴です.
- 知能システム パロ:アザラシ型で、医療・介護施設でセラピー用ロボットとして活躍しています。米国FDAの医療機器認証も取得しており、ストレス緩和や情緒安定の効果が認められています。
Siriusは、こうした多様なAIペットの中でも、特に俊敏な動きとAIによる個性育成に焦点を当てていると言えるでしょう。2025年から2029年にかけて、世界のロボットペット犬市場は9億5,830万米ドルに成長し、年平均成長率(CAGR)16.6%で加速すると予測されています。
高齢者の楽しみの提供や、本物のペットが持つ健康問題の回避、そしてAIの組み込みが市場を牽引する主な要因とされています。
ロボットとAIの進化:Siriusが示す未来の片鱗
SiriusのようなAIペットの登場は、AI技術が私たちの身近な存在になりつつあることを実感させてくれます。AIは今、「大きなAI」と「小さなAI」という二つの方向へ進化していると言われています。
「小さなAI」と「大きなAI」
「大きなAI」とは、膨大なデータと計算能力を持つ、公共性のある高度な推論能力と汎用性を持つAIを指します。まるで電力会社のように、社会にとって不可欠な知のインフラとなる存在です。
一方、「小さなAI」は、Siriusのようにデバイスに組み込まれ、私たちユーザーに寄り添い、その人の状況や環境を最もよく知る存在となるAIです。
Siriusはまさに「小さなAI」の好例です。
画像認識の「目」や音声認識の「耳」のように、センサーから収集したデータを分析し、身の回りの状況を把握します。簡易な問題にはその場で対処し、より高度な思考が必要な場合は「大きなAI」の知的なリソースを利用して、推論能力を拡張すると考えられます。
Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)でも、スマートフォンに組み込まれた小規模モデルがユーザーの意図を抽出し、必要に応じて大規模モデルに推論を依頼する仕組みが示されており、これは「大きなAI」と「小さなAI」の連携の萌芽と言えるでしょう。
この連携により、ユーザーは複雑なプロンプトを用意する必要がなくなり、SiriusのようなAIペットも格段に使いやすくなるはずです。AIが汎用技術として社会に溶け込んでいけば、私たちの生活はもっと便利で豊かなものになるでしょう。
世界モデルと身体的体験学習
ロボットが人間のように自律的に行動するためには、「世界モデル」の獲得が不可欠です。世界モデルとは、周囲の環境を理解し、自らの行動を予測・生成するための枠組みのことです。
例えば、キャッチボールでボールの軌道を予測して捕らえるように、物体認識や状況理解、基本的な物理法則が世界モデルに備わっている必要があります。
生成AIの進化は、この世界モデルの獲得に大きな進歩をもたらしました。
文章生成AIに「ロボットとして、飲み物を持ってきてくださいと言われたらどう行動しますか?」と尋ねると、「まず、冷蔵庫を探します…」と、次に取るべき行動を生成できるようになったのです。これは、大規模言語モデルが不完全ながらも一般常識や概念を獲得し、自律的な行動を導き出せる可能性を示しています。
しかし、AIが言葉の世界で示した行動を、カメラやセンサーが捉える現実の世界の動作に結びつける「シンボルグラウンディング問題」という課題があります。
この問題は、マルチモーダルモデル、つまり文字だけでなく、音声や画像、動画などからも情報を抽出し、何に注目すべきかを判断できるAIの開発によって解決が目指されています。
OpenAIの「Sora」やチューリングの自動運転向け世界モデル「Terra」のようなマルチモーダルな世界モデルの開発が加速しており、これらがロボットの行動計画をより現実世界に即したものにしていくと考えられます。
さらに、AIには人間が成長の過程で得る「身体的体験」に相当するデータが不足しています。
例えば、ネジを回す際の力の加減は、実際に体験することで初めて身につくものです。ヒューマノイドロボットを通じた実世界での経験学習は、この身体的体験データを提供し、AIの世界モデルを改善し、実用化に近づける有望な方法だと考えられています。
Siriusのような四足歩行ロボットも、工場のような現場で多様な作業を通じて実世界データを収集する「アバター」となり、世界モデルの完成に貢献していくかもしれません。
人とAIロボットの新しい関係性
SiriusのようなAIペットロボットが普及していく中で、私たちはロボットとどのような関係を築いていくべきでしょうか。実は、人間は昔から自動で動くものに対して、どこか「生き物」のような感情を抱いてきました。
ロボットへの共感と倫理
たとえば、ルンバに「ちゃん付け」で呼んだり、名前をつけたりする人が多いのは、世界的に見ても珍しくありません。
米軍の地雷処理ロボットが足を失いながらも前進する姿に、責任者が「非人道的だ」と感じて実験を中止した例や、ボストン・ダイナミクス社の犬型ロボット「Spot」を蹴る動画に多くの人が否定的な感情を抱き、動物愛護団体に問い合わせが殺到した例もあります。
これは、人間が生物学的に、自律的に動くものに対して意思や生命を見ようとするようにできているからだと説明されています。
ロボット倫理学者のケイト・ダーリング博士は、ロボットと人間の関係を考える上で、最も良い例えは「動物との関係」ではないかと提唱しています。
私たちは、可愛いという理由や社会的な理由で特定の動物には思いやりを寄せますが、同じ能力を持つ動物でも食肉として扱うことがあります。ロボットもまた、私たちの感情移入の対象となるか、それとも道具として扱われるか、その両方の性質を持つ存在になっていくかもしれません。
共生する未来への問い
ロボット倫理学は、ロボットに関する問題だけでなく、人間とロボットの相互作用、そしてロボットをどのような存在として受け入れるべきかを考察する新しい研究分野です。
例えば、「ロボット犬を蹴らないようにすることが、本物の犬を蹴るような人間にならないために効果があるのか?」という問いは、私たちの行動や社会規範に影響を与える可能性を秘めています。
すべての新しい技術には機会とリスクが伴いますが、AIとロボット工学はその中でも特に倫理的な側面を深く考える必要があるとされています。自律型兵器システム、加害に対する責任、職場や病院へのロボット導入による社会への影響、プライバシーやデータセキュリティなど、多岐にわたる課題が存在します。
私たちは、ロボットがまだ痛みを感じないとしても、ロボットに対する振る舞いが私たち自身に影響を与えるかもしれないという視点を持つことが重要です。
子どもがAIペットに優しく接する時、それは単なるモーターや歯車でできた物体ではなく、私たち自身の人間性の反映とも言えるでしょう。
広がるAIペットの可能性と未来
Siriusのような犬型AIロボットの登場は、AIペットが私たちの生活にますます深く入り込んでいく未来を示しています。彼らは単に私たちの癒しになるだけでなく、様々な場面で私たちをサポートする存在へと進化していく可能性があります。
コミュニケーションと癒しの深化
AIペットロボットのコミュニケーション機能は日々進化しており、子供や高齢者との触れ合いにおいて大きな役割を果たすことが期待されています。
自然な会話や、利用者ごとの個性や状況に合わせた応答が可能になることで、語彙力や表現力を育む知育要素、孤独感の軽減、認知機能の刺激など、多様な効果が生まれています。可愛らしい動きや反応は、疲れた私たちに安心感を与え、ストレス軽減にもつながると多くのユーザーが感じています。
ソニーのaiboは、その「情緒的価値」を重視した取り組みも始めています。
aiboの「里親プログラム」では、オーナーから寄付されたaiboが、医療施設や介護団体へ提供されます。これは、モノとしての価値だけでなく、所有者との関係性や経験の積み重ねといった、目に見えない価値を重視する現代の消費者の傾向を反映した、持続可能な社会づくりにも貢献する取り組みと言えるでしょう。
ロボットと人間の新たな関係
今後、ロボットは単なる「道具」ではなく、私たちの「パートナー」としての役割を強めていくはずです。2030年代から2040年代にかけては、Siriusのような「小さなAI」が自動車や家電、空間などあらゆるものに組み込まれ、「Ambient Intelligence(環境知能)」という、空間そのものが知性を持つ世界が実現すると予測されています。この環境知能によって、私たちはモノと対話し、より効率的に課題を解決できるようになるでしょう。
もちろん、AI技術の進化には電力消費量の増大や、学習データに起因するAIの「偏り」といった課題も存在します。しかし、これらの課題を乗り越えながら、AIとロボットは私たちの生活に欠かせない存在になっていくはずです。
私たちのAIとの関わり方
AIはこれからも進化し続けます。私たち人間がAIとどのように向き合い、どう共生していくかは、非常に大きなテーマです。Siriusのように私たちに寄り添い、感情豊かな反応を見せるAIペットは、その関係性を考える上で大切な存在となるでしょう。
彼らとの触れ合いを通じて、私たちはロボットに対する新しい感情や、人間らしさとは何かを改めて考えるきっかけを得られるかもしれません。
HengbotのSiriusが、私たちの生活にどのような新しい「楽しみ」を運び込んでくれるのか、今から期待でいっぱいです。AI技術と感情が交差するこの時代、ロボットと人間が共に成長し、ポジティブなコミュニケーションを築いていく未来が、すぐそこまで来ているように感じますね。