金融の世界に導入されるAI。私たちの生活はどう変わる?

こんにちは、Tak@です。普段はシステムインテグレーターとして様々なシステム開発に携わりつつ、趣味で生成AIを活用したWebサービス開発を楽しんでいます。

このコラムでは、今話題のAIが金融の世界でどのように使われ、これからどうなっていくのかを、皆さんの身近な視点でお話ししたいと思います。

AIが金融を変えるって、どういうこと?

金融業界は、これまでも多くの変化を経験してきました。

昔の金融犯罪リスクを評価する方法は、ほとんどが固定的なモデルや人の手による確認が中心でした。

取引がものすごく増えると、その分時間と手間がかかり、間違った警告(誤報)も多く出がちでした。

そんな状況に、AIの力が注目されています。

AIは、機械学習や自然言語処理(NLP)、将来の予測といった技術を使いこなすことで、これまでの方法では見つけられなかったパターンや普通ではない動きを、リアルタイムで見つけられるようになりました。

例えば、ある金融機関では、お客様の取引の記録と、そのお客様の情報(年齢や職業など)をAIに教えてあげることで、これまでは気づかなかった国をまたいだお金のやり取りの変なパターンを、早く見つけ出せるようになりました。

これは、AIが金融犯罪の兆候を早めに「見つける」だけでなく、その後の対策を決める手助けまでしてくれるので、とても助かりますね。

AIが金融業界にもたらす変化は、大きく分けて5つの良いことがあります。

  • より正確に不正を見つける:たくさんのデータをいろんな角度から見て、新しい手口の不正や、想像していなかったリスクのパターンを、もっと早く見つけられます。
  • 間違った警告を減らす:これまでのやり方でたくさん出ていた誤報が減るので、監査やコンプライアンスの担当者の「警告疲れ」を軽くします。
  • 自分でどんどん学ぶ:AIは新しい例から学び続けるので、時間が経つにつれて、ますます不正を見つける能力が上がっていきます。
  • いつでも見張る:日々の取引やお客様の動きをすぐに確認できるので、問題が起こる前に対応できます。
  • 監査の計画が上手になる:AIがリスクが高い場所を見つけてくれるので、監査の計画を効率良く立てる手助けになります。

これまでのリスク評価は、一度作ったモデルをずっと使い続ける傾向がありました。

何年も前のデータで作ったルールや点数の付け方を、なんとなく使い続けている組織も多かったのです。

でも、AIを導入すると、こうした「昔のやり方」に縛られず、柔軟に対応できるようになります。

金融業界のAI活用最前線

AIは、金融の世界で本当に幅広く使われ始めています。

特に、私たちの見えないところで日々の業務を支えたり、お客様とのやり取りをスムーズにしたり、さらには会社を守る大切な役割も担っています。

内部業務をスムーズに

金融機関の仕事は、書類をたくさん扱ったり、複雑なシステムを動かしたりすることが多いものです。

AIは、こうした「ホワイトカラー」と呼ばれるデスクワークを大いに助けてくれます。

例えば、契約書や会議の議事録、社内の問い合わせへの返事を作るのをAIが手伝ってくれます。

また、プログラミングのコードを自動で作ったり、システムのテスト項目を考えたりと、システム開発の現場でもAIが活躍しています。

みずほフィナンシャルグループや京都銀行、SMBCグループのような大きな金融機関でも、こうしたAIアシスタントツールの導入を進めています。

そういえば、昔、COBOLシステムのC#へのストレートコンバートでMOVE文の再現に苦労した経験があります。

AIがあればもっと楽だったかも。

書類を文字データにする「OCR」という技術や、必要な情報を素早く見つける「情報検索」も、AIが得意とするところです。

金融機関は大量の文書を扱うので、これらの業務の効率が上がると、人手でかかる時間が大幅に減りますね。

お客様とのやり取りを変える

AIは、お客様との接し方も大きく変えています。

皆さんも、ウェブサイトでチャットボットと話したり、電話で自動音声に対応してもらった経験があるかもしれません。

AIを使ったチャットボットや音声AIは、お客様からの質問に24時間365日いつでも答えることができるようになりました。

これにより、お客様は待ち時間なく疑問を解決でき、金融機関側も人手の負担を減らせます。

さらに、AIは、お客様一人ひとりの状況に合わせて、ぴったりの金融商品やサービスを提案するのも得意です。

例えば、マネックス証券の「AIハッチ」やSBI証券の「SBIラップ AI投資コース」、楽天証券の「投資AIアシスタント」のように、AIが市場の動きやお客様の情報を分析して、投資のアイデアや資産運用の提案をしてくれます。

保険業界でも、第一生命がAIを使ってお客様に合った保険のプランを見直したり、東京海上日動が生命保険と損害保険をまとめて提案したりする事例が出てきています。

スマホアプリで保険の相談ができるサービスや、お客様と相性の良い営業員を紹介するAIマッチングサービスなども登場しています。

会社を守るリスク管理を高度に

金融の世界では、お金の悪用や詐欺から会社やお客様を守ることがとても重要です。

AIは、このリスク管理の分野で、目覚ましい力を発揮しています。

AIは、お金の動きを監視して、普通ではない取引をすぐに見つけ出します。

例えば、マネーロンダリング(犯罪で得たお金をきれいにする行為)を防ぐための取引の監視や、国際的な制裁を受けている人のリストと照らし合わせてチェックする作業などです。

また、クレジットカードの利用履歴やネットバンキングのログインのパターンから、普通ではない頻度や時間帯、金額を見つけ出して、詐欺を早く見つけ出す手助けもします。

NECは、このAIを使った不正やリスクを見つけるサービスを提供しており、大和証券やSBI証券がこれらを導入して、不公正な取引を見つける体制を強化しています。

海外の金融機関でも、DBS銀行がAIで不正取引を見つけたり、Mastercardが不正取引をミリ秒単位で検出したり、Lemonadeという保険会社がAIチャットボットで自転車盗難の保険金をわずか2秒で支払ったりと、AIをリスク管理に活かす例がたくさんあります。

国内の銀行でも、千葉銀行がAIを使って振り込め詐欺や不正利用の口座を見つけるシステムを導入したり、住信SBIネット銀行が不正送金対策のAIモニタリングシステムを自分たちで作ったり、セブン銀行がATMの現金の出入金のずれをAIで予測したりしています。

これらは、AIが金融機関の「目」となって、見えにくい不正やリスクを見つけてくれる例と言えるでしょう。

AIが金融にもたらす新たな展望

AIが金融業界にもたらす影響は、今見えているものだけにとどまりません。

これからの金融サービスのあり方や、私たちが受けることができる価値を大きく変える可能性を秘めています。

効率と品質の上昇

AIの導入は、まず何よりも「効率の上昇」と「品質の上昇」をもたらします。

これまで人の手で大量の資料や取引データを一つ一つ見ていた作業は、どうしても時間と手間がかかり、見落としも発生しがちでした。

しかし、AIがデータをふるいにかけ、普通ではない値やリスクのパターンを前もって見つけてくれるので、人はもっと深く調査したり、お客様に話を聞いたりする時間に集中できるようになります。

AIは、不正を見つける精度を上げ、間違った警告を減らし、リアルタイムで監視することで、業務のスピードを大幅に上げています。

この結果、金融機関の運用コストやサイバーセキュリティ対策にかかる費用を抑えることにも繋がります。

日本全体で人口が減り、一人当たりの仕事の成果が落ちる中で、AIによる生産性の上昇はとても大切な意味を持ちます。

新しい価値の創造

AIは、既存の業務を効率化するだけでなく、これまでになかった新しいサービスやお客様にとっての価値を生み出す力も持っています。

AIがお金やお客様に関するたくさんのデータを分析することで、お客様一人ひとりに本当に「ぴったりの」金融商品やサービスを提案できるようになります。

また、AIは市場の動きを詳細に分析し、将来を予測する能力も持っているので、資産運用や投資の分野でも、より賢い判断ができるようになるでしょう。

例えば、フランスの保険会社AXAは、AIを使った「テレマティクス保険」というものを提供しています。

これは、車の運転データ(スピード、急ブレーキなど)をAIが分析し、安全運転をしている人には保険料を安くするというものです。

これにより、お客様は公平で分かりやすい保険料で、安全運転を心がけるきっかけにもなります。

海外の証券会社では、AIによる「完全自動売買」が強力な武器となっています。

AIが24時間365日市場を監視し、最適なタイミングで取引を自動的に実行します。

人の感情に左右されず、タイミングを逃すことなく取引ができるため、投資の効率が上がり、より安定した成果を目指せるのです。

また、AIが市場の状況に合わせて自動的にリスクを調整してくれる「高度なリスク管理」も特徴です。

AIと向き合う際の注意点

AIがもたらす恩恵は大きい一方で、AIを使う上で気をつけなければならないこともたくさんあります。

「なぜそうなった?」の壁

AI、特に「生成AI」と呼ばれるものは、どうやって答えを出したのかが人間には分かりにくい「ブラックボックス」のようになっています。

金融機関は、お客様や国の監督機関に対して、自分たちの判断や行動についてきちんと説明する責任があります。

もしAIが出した結果に基づいてお客様に不利益な判断を下した場合、「なぜその判断になったのか」をしっかり説明できる必要がありますが、AIの複雑さゆえにそれが難しいことがあります。

また、AIは学習するデータに偏りがあると、差別的な結果を出してしまう「バイアス」の問題も抱えています。

例えば、ローンの審査にAIを使った場合に、特定の性別や地域の人に不利な判断をしてしまうようなことが起こり得ます。

この問題を解決するためには、AIの判断を人が必ず確認するプロセスを取り入れたり、AIが間違った情報を出す可能性があることをお客様にあらかじめ伝えたりする工夫が必要です。

金融庁や日本銀行も、この「説明可能性」や「公平性」の問題を重要視し、対話を続けています。

データの質と情報管理

AIは、教えられたデータの質に大きく左右されます。

もし古い情報や偏ったデータを使って学習すると、AIも偏った判断をしてしまいます。

なので、AIを使うためには、良い品質のデータをたくさん用意し、適切に管理することがとても大切です。

また、金融機関が扱うお客様の個人情報や会社の機密情報は、とてもデリケートな情報です。

AIにこれらの情報を入力する際、意図せず外部に情報が漏れてしまうリスクがあります。

クラウドで提供されるAIサービスを利用する際は、データが再学習に使われないようにしたり、外部に流出しないような仕組みを整えたりすることが求められます。

社員が会社の許可なく外部のAIサービスを使ってしまう「シャドーIT」の利用が増える可能性もあり、これも情報漏洩のリスクを高めます。

セキュリティと悪用

AIの進化は、サイバー攻撃の手口をより巧妙にする可能性も指摘されています。

例えば、AIが作ったとても自然なメールや偽のウェブサイトで、私たちをだますフィッシング詐欺が増えるかもしれません。

「ディープフェイク」と呼ばれる技術は、特定の人物の偽の動画や音声を簡単に作れるようになるため、これを使った詐欺行為も増える恐れがあります。

過去には、アメリカ国防総省の近くで爆発があったとする偽の画像がSNSで広まり、株価が一時的に下がった例もあります。

金融機関の本人確認システムを、こうした偽の画像や動画で突破されてしまう危険性も考えられます。

こうしたリスクに対処するためには、会社全体でセキュリティ対策を強化し、従業員への教育を徹底すること、そしてAIの専門部署だけでなく、法務やコンプライアンスの部署とも連携して、リスクに対応する体制を整えることが大切です。

金融システムへの影響

AIが広く使われるようになると、投資家や金融機関がAIの判断に基づいて同じような行動をとることで、市場が大きく一方向に動いてしまう「群衆効果」が生じる可能性も指摘されています。

もし、AIを提供する会社が一部に集中してしまうと、その影響はさらに大きくなるかもしれません。

日本銀行の植田総裁も、「方程式があればAIでも決められる」としながらも、「人間として最善の判断をしていく」と述べ、AIだけでは決められない部分、人の判断が重要であることを示唆しています。

AIはあくまで手助けであり、最終的な責任は人が負うべきだ、という考え方が大切になります。

金融とAIのこれからの道のり

AIはまだ進化の途中にあり、金融業界での活用もこれからが本番です。

ガバナンスの準備と人材育成

AIを安全に使うためには、会社の中でしっかりとしたルールや仕組み(「AIガバナンス」と呼びます)を作ることが欠かせません。

AIの進化はとても早いので、一度ルールを作ったら終わりではなく、状況の変化に合わせて柔軟に見直していく必要があります。

また、AIを使いこなせる専門的な知識を持った人材が、まだまだ足りていません。

会社の中でAIの専門家を育てたり、外部の専門家と協力したりすることが求められます。

日本銀行や金融庁も、AIの活用を進めるための人材育成や、官民、国際的な協力の重要性を強調しています。

導入への着実なステップ

AIの導入は、段階的に進めるのが良いとされています。

まず、どんなことにAIを使いたいのか目的をはっきりさせ(例えば、マネーロンダリング対策か、詐欺を見つけることかなど)。

次に、AIが動くためのデータの準備や管理の仕組みを整えます。

そして、まずは限定された範囲でAIを使ってみる「パイロットプロジェクト」を行い、その結果を見ながら少しずつ広げていくのです。

AIのシステムを作る際、全てを自分たちで開発するか、外部のサービスを使うかという選択肢があります。

どちらが良いかは、会社の目的や求める機能、セキュリティの厳しさなどによって変わってきます。

新しいAIサービスを導入する際には、それがどれくらい使いやすいか(UI/UX)、そして実際の業務の流れにどう組み込むか(業務オペレーション)についても、事前にしっかり話し合うことが大切です。

また、AIを使ったサービスが始まると、個人情報の扱い方やシステムの基盤など、様々な部署との連携が必要になるので、部署間のスムーズなやり取りができる体制を整えることも重要です。

日本銀行や金融庁も、物価や金利の分析、金融機関の監督業務にAIを活用する検討を進めています。

彼らは、AIの技術がとても速く進んでいることを踏まえ、既存のルールや指針を柔軟に見直していく姿勢を示しています。

人とAIの共同の未来

AIは、私たちの仕事を奪うものではなく、私たち人間の能力を広げる「優秀な補助監査人」のような存在と考えることができます。

大量の資料を記憶し、必要な情報を瞬時に取り出せるAIは、まるで優秀な新人監査人のようです。

しかし、AIが出した結果をそのまま受け入れるのではなく、最終的な判断はやはり人が行うことが大切です。

AIと人間が協力し、お互いの得意なことを活かし合うことで、より良い成果を生み出し、金融業界をさらに進化させることができるでしょう。

金融とAIの未来は、ただ技術が進むだけでなく、私たちがAIとどのように向き合い、どのように協力していくかにかかっています。

これからも、この新しい共同作業が、私たちの生活を豊かにしていくことを期待しています。

Follow me!

photo by:Alicja Ziajowska