知っておきたい「AI推進法」のはなし:目的から私たちの役割まで

こんにちは!システムインテグレーターのTak@です。

このコラムでは、最近話題になっているけれど、ちょっと難しそう…と思われがちな「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」、通称「AI推進法案」について、皆さんに分かりやすくお伝えしたいと思います。

この法律が、私たちの未来にどう関わってくるのか、一緒に見ていきましょう。

AIが私たちのそばに来て、法律の話が出始めました

近年、AIという言葉を聞かない日はありません。

私たちのスマートフォンや家電、インターネットの検索結果や、ニュース記事の自動生成など、AIは私たちの日常生活に静かに、しかし確実に溶け込んできています。

少し前までは遠い未来の話だと思っていたAIが、今や私たちのすぐそばにある技術となっています。

このような状況を受けて、国ではAIに関する技術をどのように発展させ、社会で活用していくか、そしてその際に生じる可能性のある問題にどう対処していくか、といったことを考える動きが進んでいます。

その一つが、今回ご紹介する「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」です。

なぜ、今この法律案が必要とされているのでしょうか?その目的から見ていきましょう。

この法律は何を目指しているの?

この法律の一番の目的は、人工知能関連技術の研究開発と活用を総合的かつ計画的に進めることです。

なぜそれが必要かというと、AI関連技術が、日本の経済社会の発展の基盤となる技術だからです。

行政の仕事や、会社の事業活動が効率的になったり、もっと高度になったり、全く新しい産業が生まれたりする可能性を秘めているんですね。

さらに、この技術は安全保障の観点からも重要だと考えられています。

簡単に言うと、この法律は「これからの日本を支えるAI技術を、国全体でしっかり育てて、上手に使っていきましょう!」という方針を示すものなんです。

科学技術やデジタル社会の発展に関する他の法律と協力しながら、この目的を達成しようとしています。

どんな技術が対象なの?

では、この法律で言う「人工知能関連技術」とは、具体的にどのような技術を指すのでしょうか。

法律案によると、それは「人工的な方法によって、人間が持っている『認識する、推論する、判断する』といった知的な能力を代わりに果たす機能を実現するために必要な技術」、そして「入力された情報をこれらの技術を使って処理し、結果を出す機能を実現するための情報処理システムに関する技術」、と定義されています。

少し専門的ですが、私たちの身近な例で考えると、例えば、画像を見てそれが何かを判断したり(認識)、たくさんのデータから最適な答えを導き出したり(推論・判断)、あるいは私たちが質問した内容から文章を生成したりするような技術がこれにあたります。

そうした知的な機能を実現するための、プログラムやシステムの技術も含まれるということですね。

法律の根本にある考え方

この法律には、AI技術の研究開発と活用を進める上での「基本理念」がいくつか定められています。

これは、活動を進める上でみんなが心に留めておくべき大切な考え方です。

まず、AI技術は経済社会の発展の基盤となる技術であり、安全保障の観点からも重要なので、日本国内での研究開発能力を保ち、産業の国際競争力を高めることを目指します。

次に、基礎研究から実際に社会で使われるまで、様々な段階にいる関係者(研究者、企業、利用者など)の取り組みは密接に関連しているので、これらの取り組みをまとめて計画的に進めることが大切だとされています。

さらに、AI技術は正しく使われないと、犯罪に悪用されたり、個人情報が漏れたり、著作権を侵害したりして、私たちの生活や権利が損なわれる可能性があります。

そのため、研究開発や活用のプロセスを透明にするなど、適切に行われるための対策を講じなければならない、と明確に記されています。

これは、AI技術の発展とともに、その「危うさ」にもしっかり向き合っていく、という姿勢の表れと言えるでしょう。

そして、AI技術は日本国内だけでなく、国際社会の平和と発展にも貢献できるよう、国際的に協力して進めていくことがうたわれています。

日本が国際協力で主導的な役割を果たすよう努めることも目標の一つです。

これらの基本理念は、単なるお題目ではなく、この法律に基づく様々な施策の土台となる考え方なのです。

国だけじゃない、みんなに関係する法律

この法律案では、国だけでなく、私たちを取り巻く様々な主体がAI推進において果たすべき「責務」が定められています。

つまり、「あなたは何をすべきですか?」という役割分担が決められているんですね。

は、この基本理念に沿って、AIの研究開発と活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に考え、実行する責任があります。

また、行政の効率化・高度化のために、国自身も積極的にAIを活用していくとしています。

地方公共団体(都道府県や市町村など)も、国の施策と役割分担をしながら、それぞれの地域の特徴を活かした独自の施策を進める責任があります。

研究開発機関(大学や研究法人など)は、AIの研究開発とその成果を広めること、そしてAIに詳しい人材を育てることに積極的に努めるべきとされています。

国や地方公共団体の施策にも協力することが求められています。

さらに、AIの研究開発には、人文科学(哲学や歴史など)や自然科学(物理や生物など)といった多様な分野の知識を組み合わせることが必要なので、分野を超えた研究開発に努めるべき、とも記されています。

特に事業者さん、そして私たち国民の役割

この法律で特に注目されるのが、「活用事業者」と「国民」に求められる責務です。

活用事業者とは、AIを使った製品やサービスを作ったり提供したりする企業、あるいはAIを事業に活かそうとする全ての人や組織を指します。

これらの事業者さんは、自ら積極的にAIを活用して事業を効率化・高度化したり、新しい事業を生み出したりするよう努めなければなりません。

そして、国や地方公共団体の施策に協力することも求められています。

ニュース記事では、この法律が「企業の責務」を明文化した基本法であると述べられています。

興味深いのは、この法律が「罰則なき基本法」である点です。

つまり、ここで定められた責務を果たさなかったとしても、直ちに罰せられるわけではありません。

これは、AI技術の発展が速く、規制をかけるよりは、まずは基本的な方向性や考え方を示し、関係者全体の意識を高めることを優先しているのかもしれません。

実務とガバナンスの両立」を目指す法律だとも言われています。

そして、私たち国民にも責務が定められています。

それは、基本理念にのっとり、AI関連技術に対する理解と関心を深めることです。

そして、国や地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるべき、とされています。

AIが社会に浸透していく中で、私たち一人ひとりがAIについて学び、正しく理解しようとすることが大切になってくるわけです。

具体的にどんなことを進めるの?

この法律案では、AI推進のために具体的にどのような施策を行うかも示されています。

研究開発から人材育成まで

まず、最も基本となるのが研究開発の推進です。

基礎研究から実用化までを一貫して進めることや、研究成果を社会に広めるための体制整備などが含まれます。

また、AIの研究開発や活用には、大量の情報を処理するコンピューターや、必要なデータセット(特定の目的で集められた情報のまとまり)などが不可欠です。

そこで、このような施設や設備、そしてデータ基盤などを整備し、研究機関や企業が広く利用できるように促進する施策も盛り込まれています。

AI技術を適切に使うためには、倫理的な問題や安全性の確保も重要です。

法律案では、国際的なルールに沿ったガイドラインを作るなど、AIの研究開発と活用が適正に行われるための施策を講じるとしています。

AI分野を担う人材の確保や育成も重要な課題です。

国は、地方公共団体や研究機関、企業と連携しながら、基礎研究から活用まで、様々な段階で必要となる多様な専門人材を確保・養成・資質向上させるための施策を進めます。

そして、国民全体がAIについて理解を深められるよう、AIに関する教育や学習の機会を増やしたり、AIに関する情報を分かりやすく伝えたりする施策(広報活動など)も行われます。

これは、私たち国民がAIへの理解を深める責務を果たす上でも、国が私たちをサポートしてくれるということですね。

その他にも、国内外のAIに関する動向を調べたり、不正利用による被害の分析や対策を検討したり、国際的な協力やルール作りへの参加などが、具体的な施策として挙げられています。

政府はどう動くの?

この法律案では、AI推進の施策を国として強力に進めるための体制も定められています。

それが、内閣に設置される「人工知能戦略本部」です。

この本部は、内閣総理大臣が「人工知能戦略本部長」となり、内閣官房長官や人工知能戦略担当大臣が副本部長、その他の全ての国務大臣が本部員となって構成されます。

つまり、政府全体がAI推進を重要課題として捉え、一致団結して取り組むための司令塔となる組織です。

人工知能戦略本部の主な仕事は、AI推進に関する基本的な計画、その名も「人工知能基本計画」の案を作成し、その実施を推進することです。

この計画には、施策の基本的な方針や、政府が総合的かつ計画的に行うべき施策などが盛り込まれます。

この計画案は、最終的に閣議で決定され、公表されることになります。

このように、AI推進法案は、法律という形で基本的な考え方や方向性を示し、それを実行するための計画を作り、政府一体となって推進していく、という大きな枠組みを定めているわけです。

ニュース記事で「政府の新体制を明文化」と書かれているのは、まさにこの人工知能戦略本部が設置されることを指しています。

私の経験から思うこと

システムインテグレーターとして、日頃からITやAI技術に触れている私にとって、今回のAI推進法案の成立は、日本のAI分野が次の段階に進むための重要な一歩だと感じています。

特に、活用事業者の責務が明記されたことや、罰則がない基本法である点は、これからAIを社会に実装していく上で、企業がどのように向き合っていくか、大きな影響を与えるでしょう。

法律ができたからと言って、すぐにすべてが変わるわけではありませんが、国としての明確な方針が示されたことで、企業も研究機関も、そして私たち個人も、AIにどう関わっていくべきか、考える良い機会になると思います。

AI技術はものすごいスピードで進化しています。

だからこそ、法律もその進化に合わせて柔軟に見直していく必要があるでしょう。

法律案には、施行状況などを踏まえて、必要に応じて見直しを行う「検討」の規定も盛り込まれています。

これからAIとどう向き合うか

「AI推進法」案は、日本のAI技術を世界に通用するものに育て、それを社会全体で有効に活用していくための土台を作る法律と言えます。

研究開発の推進、人材育成、データの活用基盤整備、そして倫理的な側面への配慮など、多岐にわたる施策が盛り込まれています。

重要なのは、この法律が単に規制するものではなく、AI技術の「推進」を掲げつつ、その「適正な実施」や「ガバナンス」も両立しようとしている点です。

そして、その実現のためには、国や企業だけでなく、研究機関、地方公共団体、そして私たち国民一人ひとりの理解と協力が不可欠だと示されています。

AIは私たちの生活や社会をより良くする大きな可能性を秘めています。

この法律をきっかけに、AIについてもっと知ろうとし、AIとどう共存していくか、私たち自身も考え、行動していくことが、これからのAI社会をより豊かなものにしていくのではないでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

このコラムが、皆さんがAI推進法やこれからのAI社会について考えるきっかけになれば嬉しいです。

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photo by:これこれ